桑田真澄に期待する(上)|野球報道

朝日新聞7月20日付朝刊で、桑田真澄が「野球を好きになる七つの道」と題するオピニオンをほぼ全10段のスペースで語っていた。感心した。見出しだけを上げる。 
一、練習時間を減らそう
二、ダッシュは全力10本
三、どんどんミスしよう
四、勝利ばかり追わない
五、勉強や遊びを大切に
六、米国を手本にしない
七、その大声、無駄では?
成長盛りの少年の体力を無視した長時間の練習、指導者による過酷な練習の強制、ミスに対する残酷な制裁、汚い手を使ってでも勝とうとするインモラル、野球バカの醸成など、桑田は、高校野球に象徴される日本の野球への取り組み方に、鋭い批判のまなざしを向けている。「甲子園の申し子」とも言える桑田の話だから説得力がある。また「高校野球の権化」ともいうべき朝日新聞の記事であることも意義がある。桑田が僚友清原とは異質の人間であることがよくわかる。
高校野球の指導者たちが、この記事を読んでどう思ったか、興味深いところだ。
昨夜、「雨トーク」というバラエティ番組で、運動部のトップアスリートだった芸人たちが、当時のエピソードを話していた。修学旅行中もトレーニングをさせられたり、練習中は一切水分補給を許されなかったり、寮生活でプライベートが全くなかったり。明らかな人権侵害、違法行為が教育の名の下、今も行われている。暗然とする“笑い話”だった。「いじめ」の排除が神経質に叫ばれるが、どうして体育会系の仕打ちは見逃されているのかよくわからない。
現在の体育は、戦時中陸軍が主導した軍事教練の流れをくんでいる。陸軍は、徹底した縦社会を作り上げ、兵たちに自己に対する執着を一切捨てさせ、上官の命令で喜んで死地に赴く人間を量産した。絶対服従のヒエラルキーには小人たちが巣食って、リンチや虐待などの犯罪が行われた。65年たった今も、その匂いはそのまま日本全国の体育会系の部室にわだかまっている。
そうした軍隊型の製造システムで作られた人間は、“量的”目標に対しては異様な力を発揮することが多い。高度成長期の日本は、こうした人材が作ったと言えるだろう。しかし、社会が成熟し、個々が独自の判断を求められる“質的”時代に入って、日本の成長が止まったのは、自分で考えて判断し、意見が言える人材がいなかったからだ。オリンピックでの不振もこの流れで説明されることが多い。
桑田真澄は、こうした軍隊型システムの頂点とも言うべき組織で育ちながら、それを超克した。高校時代から練習法に疑問を投げかけ、行き過ぎたヒエラルキーを改めようとした。大した人物だと思う。
(以下 「下」に続く)


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5 comments to 桑田真澄に期待する(上)|野球報道

  • fujibo

    先日テレビで氏が同様の論を展開したときは反発を喰らっていました。ソフトボール・バレーボールOBが、体罰は時には有効として反発する展開に。面白かったのは、格闘家の魔裟斗氏が体罰に反対で、自信も体罰を受けたり後進に与えたことがなかったということ。自ら強くなりたい、上手くなりたい選手には必要ないんだなあと感じました。

  • khiroott

    体罰は、理解させるためではなく、服従させるための道具ですね。それが必要なチームは、自分で考えないチームになるでしょう。日本の指導者は「勝てるチーム」を作りたいのであって、「自分で考えるチーム」は必要ないと思っているのでしょう。

  • duples

    >体罰は、理解させるためではなく、服従させるための道具
    これまで耳にした体罰に関する文章の中で、最も腑に落ちました。とても正鵠を射た表現だと思います。
    「一度プライドを粉々にしてから、教えを叩き込む」という体育会系のシゴキは、映画「フルメタル・ジャケット」に出てくるアメリカ海兵隊の新兵教育にそっくり。仰るとおり軍隊の流れを汲むものなんでしょうね。
    あと、日本のアマチュア指導者たちが、選手に対して「自分の子供のように」接するのも、見ていてとても嫌な気持ちになります。
    たとえば駅のホームなどで、大人が大人を殴れば大きな事件になる。でも高校野球で体罰が許容されているのは、「大人が子供を殴るのは教育の延長である」と見なされているからですよね。その、監督から選手への距離感のなさ、大人扱いしない姿勢が好きになれません。
    練習は自分の意志でやるべきだし、その結果の責任は自分で取るべきです。社会に出たら当然そうなるわけですし。スパルタ式に慣れてしまうと、シゴかれないと力を出せない人間が出来上がってしまう。
    それで日本の高校野球のレベルは下がるでしょうが、軍隊のようなスパルタ強豪校は居なくなり、「自分で考えるチーム」が増えてくるのではないかと。

  • khiroott

    最近、山形有朋の評伝を読みました。この人は、政党や言論人が大嫌いで、上官の言うことに絶対服従の官僚システムを軍隊に作り上げたんですね。これが陸軍の背骨になった。理解ではなくて服従する組織=陸軍が暴走して日本を滅亡に追い込んだのは周知のことですが、組織としての機能性の高さと、柔軟性、創造力やモラルの欠如は、今も日本に残る陸軍型組織に生きていますね。体育会系はその典型です。

  • duples

    本当に体育会系と軍隊はよく似ていますね。
    高校の野球部が、しばしば下級生への暴力行為や女子生徒へのレイプまがいの事件で話題になりますよね。
    旧陸軍兵士のモラルが中国戦線で乱れたのは、上官から受けた暴力や嫌がらせへの腹いせ、という側面が大きいと聞いていますが、よく似た構図があるように感じます。
    服従によるストレスは、かならずどこかに出てきます。
    高校の保健体育の教科書には「性欲をスポーツで昇華させましょう」と書いてあるのに、その逆の現象が起きている。

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